《五年》(十四)ハネムーン期

(十四)ハネムーン期

ここでいう「ハネムーン期」とは、私とこの仕事とのハネムーン期のことを指す。

入社したばかりで、すべてが新鮮だった。3月1日9時18分、歩いて本社に行って初出勤した。山と水に囲まれた神戸、あでやかでエレガントな街の景色、高低起伏の地形、空気の中に海水の淡い塩辛い味が充満していて、艶やかな太陽が高く照りつけて、そよ風が心地よく吹いて、気持ちは少し緊張しつつも、期待も入り混じっていた。

各書類に記入した後、中華街にある大型レストランの3階に連れて行かれた。そこには会社の大型会議室がある。入社訓練が始まった。5時間の「神戸牛」知識の注入を経て、神戸牛については大まかな認識を持つようになった。訓練が終わった後、元町と三宮の主要店舗に行って、一人一人に挨拶をし、自己紹介をした。

それから1ヶ月間、毎日午前中にこのレストランで研修をしていたが、一線で戦って収入を生み出すため、その業務内容を必ずよく知っていなければならなかった。飲食業は、結局「客」を離れることができなくて、接客の一挙手一投足、顔の表情、服装の清潔さ、髪の衛生さ、基本的な歩き方、標準的な動作、会話の礼儀、接客用語、お茶・酒を注ぐ姿勢、料理を出したりお皿を下げたりするタイミング、やり方など、すべてしっかりと身につける必要がある。

Hospitalityは、大きな学問であり、見た目には簡単そうに見えるが、その要領はなかなか得られない。本部の梶という人が、私たちを監視し、叱ってくれることがよくある。

毎朝出勤するとき、部署やレストラン単位で、みんなが輪になって会社宣言を読む。日本語ではこれを「朝礼」という。元気いっぱいの情熱的な発言は、その日の自分の仕事内容を簡単に述べ、自分の高揚した闘志を示すことで、目を覚まし、自分と同僚を元気づける。「朝礼」には魔力があって、空気が抜けたボールはたちまち膨らみ弾ける感じがする。多くの場合、私は朝礼に抵抗を覚えていたが、一つ目の原因はその時自分の日本語の口語があまり上手ではないと感じたからだ。二つ目の原因は時には雰囲気が張りつめていて、自分が話す内容を事前に準備していなかった時など、内心いつもびくびくしていた。

1ヶ月間の研修を経て、4月1日、正式に観光クラブに「出向」された。「出向」となったのは、三宮にあるので、元町の部署から少し離れているからだ。行ったばかりの4ヶ月間、意気込みは十分で、熱意に満ちていた。「見込み客の可能性がある」人物が5メートル以内に現れると、すぐに声を上げ、英語+中国語+日本語で、相手に応じて言語モードを切り替えて声を掛ける。店に連れて行くことに成功すると、心が明るく爽やかな気持ちになる。心の中に甘く、凉しい風が吹いているようだった。些細なことであっても、ある程度の達成感と言える。

当時は本気で仕事を愛し、楽しんでいた。頭の中には「できるだけ多くの人を説得するために全力を尽くす」という考え方しかなかった。力を入れすぎて、隣のライバル店のおばさんに意地悪な目でにらまれることがよくあった。ある時、二人のフランス人が隣の店の前に立っていたが、私たちの方を見ていた。私は彼らに手を振って、カウンター越しに話かけた。距離が足りないので、思い切って出て行って、彼らのそばに寄って話をしていると、中国の有名な時代劇の悪辣なおばあさん、「容嬷嬷」に似たおばさんが私の後ろで叫んだ。「何をしているの?」

ここ数ヶ月、忙しいが充実していて、穏やかで楽しかった。仕事の情熱は満ち足りていて、業務の中で自分の長所を発見し、自分の短所も理解した。最も重要なのは他人に利益をもたらすことを感じ、相手に価値を提供することができる時、他人が楽しいので自分も楽しいと感じたことだった。